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  • 2015.08.04 Tuesday

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    <小説の舞台を歩く>

    • 2010.11.22 Monday
    • 21:30


    最近柄にもなく、時代小説にはまっているShiozyである。

     

    時代小説のなかで、江戸の地名などが出てくると、

     

    グーグル地図検索で地図を確認してみたくなるのである。

     


    「日陰町から愛宕山の裏にまわり、神谷町から飯倉を抜けた。

     

    上り下りの坂道が多いが、赤坂はさして遠くない」

     

    こういう表現を読むと、歩いた後を追跡してみたくなる。

     

    ところが、「日陰町」をググルと、なんと「新橋」が表示されたりして

     

    現在の地名では拾えないケースが多いのだ。

     

    そんな時、重宝なのがこれである。

     

    ↓↓「大江戸地図帳」 人文社

    【画像:470074.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    昔の道路に沿って歩いてみる。

     

    小説の主人公になった気分が味わえるのである。

     


    「三曲がりのゆるい坂を下って吉原の大門をくぐると、

     

    まだ暮れ方前だというのに、格子を覗く大勢の男たちで賑わっていた」

     

    地図が読めると、吉原に行った気分も味わえるのである。

     


    小説の舞台が知らない土地であれば地図を広げてみたくなるのであるが、

     

    最近立て続けに「広島」が舞台の小説に遭遇した。

     

    ある日、広島は横川駅前の書店に暇つぶしに入った。

     

    文学界新人賞受賞」の背表紙が目に入った。

     

    ふむふむ、最近の新人さんはどんな作風だ。

     

    頁を開いてびっくりたまげた。

     

    小説の冒頭がこれである。↓↓

    【画像:470075.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    いきなり、横川駅前スーパーフレスタの領収書である。

     

    あんたあ、小説にこれは禁じ手でしょう。

     

    人前もはばからず、Shiozyは叫んだのである。

     

    すぐさま受賞者の頁を確認した。

     

    なんと32歳の若き女性である。

     

    【画像:470076.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    家に帰って一気読みした。

     

    なんと8枚もの領収書が掲載されている。

     

    一枚でさえも、ええんかいとツッコンだShiozyとしては、

     

    唖然空前茫然自失酒池肉林状態になったのである。

     


    よく読むと、この領収書に記されている食べ物がはんぱなく増えていくのである。

     

    つまり、この領収書は過食にはまっていく経過が明示されているのである。

     

    当初50キロ程度だった主人公理子は、138キロにまで肥満していく。

     

    それは「ポチャ専」と呼ばれるデルヘリ風俗嬢の世界なのだった。

     


    「ポチャ専」も「デルヘリ」もトンと縁がないShiozyには、

     

    摩訶不思議な世界ではあったのだが、これを32歳の女の子が表現する。

     

    それはそれで、すごいなあ、と感嘆したのだった。

     


    で、地図の前振りとどうつながるのだ?という話なのだが、

     

    吉原とデルヘリという風俗つながりではないのである。

     

    小説に登場する店

     

    フレスタ横川店

     

    セブンイレブン横川

     

    マクドナルド 白島店

     

    モスバーガー 八丁堀店

     

    中華彩館

     

    寿々苑

     

    中華デリ

     

    じゅげむ宅配サービス 楠木店

     

    これらの店を実地検証してみたい衝動に駆られているのである。

     


    地図を片手に、見学ツアーしませんか?(笑)

     


    筆者注:「広島」が舞台の小説は明日も続く。

     

    いや、明日は桐矢連載21話かも?


    -----------------------------------------------

     

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    <小説の舞台を歩く>

    • 2010.11.22 Monday
    • 21:30


    最近柄にもなく、時代小説にはまっているShiozyである。

     

    時代小説のなかで、江戸の地名などが出てくると、

     

    グーグル地図検索で地図を確認してみたくなるのである。

     


    「日陰町から愛宕山の裏にまわり、神谷町から飯倉を抜けた。

     

    上り下りの坂道が多いが、赤坂はさして遠くない」

     

    こういう表現を読むと、歩いた後を追跡してみたくなる。

     

    ところが、「日陰町」をググルと、なんと「新橋」が表示されたりして

     

    現在の地名では拾えないケースが多いのだ。

     

    そんな時、重宝なのがこれである。

     

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    昔の道路に沿って歩いてみる。

     

    小説の主人公になった気分が味わえるのである。

     


    「三曲がりのゆるい坂を下って吉原の大門をくぐると、

     

    まだ暮れ方前だというのに、格子を覗く大勢の男たちで賑わっていた」

     

    地図が読めると、吉原に行った気分も味わえるのである。

     


    小説の舞台が知らない土地であれば地図を広げてみたくなるのであるが、

     

    最近立て続けに「広島」が舞台の小説に遭遇した。

     

    ある日、広島は横川駅前の書店に暇つぶしに入った。

     

    文学界新人賞受賞」の背表紙が目に入った。

     

    ふむふむ、最近の新人さんはどんな作風だ。

     

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    小説の冒頭がこれである。↓↓

    【画像:470075.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    いきなり、横川駅前スーパーフレスタの領収書である。

     

    あんたあ、小説にこれは禁じ手でしょう。

     

    人前もはばからず、Shiozyは叫んだのである。

     

    すぐさま受賞者の頁を確認した。

     

    なんと32歳の若き女性である。

     

    【画像:470076.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    家に帰って一気読みした。

     

    なんと8枚もの領収書が掲載されている。

     

    一枚でさえも、ええんかいとツッコンだShiozyとしては、

     

    唖然空前茫然自失酒池肉林状態になったのである。

     


    よく読むと、この領収書に記されている食べ物がはんぱなく増えていくのである。

     

    つまり、この領収書は過食にはまっていく経過が明示されているのである。

     

    当初50キロ程度だった主人公理子は、138キロにまで肥満していく。

     

    それは「ポチャ専」と呼ばれるデルヘリ風俗嬢の世界なのだった。

     


    「ポチャ専」も「デルヘリ」もトンと縁がないShiozyには、

     

    摩訶不思議な世界ではあったのだが、これを32歳の女の子が表現する。

     

    それはそれで、すごいなあ、と感嘆したのだった。

     


    で、地図の前振りとどうつながるのだ?という話なのだが、

     

    吉原とデルヘリという風俗つながりではないのである。

     

    小説に登場する店

     

    フレスタ横川店

     

    セブンイレブン横川

     

    マクドナルド 白島店

     

    モスバーガー 八丁堀店

     

    中華彩館

     

    寿々苑

     

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    最近柄にもなく、時代小説にはまっているShiozyである。

     

    時代小説のなかで、江戸の地名などが出てくると、

     

    グーグル地図検索で地図を確認してみたくなるのである。

     


    「日陰町から愛宕山の裏にまわり、神谷町から飯倉を抜けた。

     

    上り下りの坂道が多いが、赤坂はさして遠くない」

     

    こういう表現を読むと、歩いた後を追跡してみたくなる。

     

    ところが、「日陰町」をググルと、なんと「新橋」が表示されたりして

     

    現在の地名では拾えないケースが多いのだ。

     

    そんな時、重宝なのがこれである。

     

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    昔の道路に沿って歩いてみる。

     

    小説の主人公になった気分が味わえるのである。

     


    「三曲がりのゆるい坂を下って吉原の大門をくぐると、

     

    まだ暮れ方前だというのに、格子を覗く大勢の男たちで賑わっていた」

     

    地図が読めると、吉原に行った気分も味わえるのである。

     


    小説の舞台が知らない土地であれば地図を広げてみたくなるのであるが、

     

    最近立て続けに「広島」が舞台の小説に遭遇した。

     

    ある日、広島は横川駅前の書店に暇つぶしに入った。

     

    文学界新人賞受賞」の背表紙が目に入った。

     

    ふむふむ、最近の新人さんはどんな作風だ。

     

    頁を開いてびっくりたまげた。

     

    小説の冒頭がこれである。↓↓

    【画像:470075.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    いきなり、横川駅前スーパーフレスタの領収書である。

     

    あんたあ、小説にこれは禁じ手でしょう。

     

    人前もはばからず、Shiozyは叫んだのである。

     

    すぐさま受賞者の頁を確認した。

     

    なんと32歳の若き女性である。

     

    【画像:470076.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    家に帰って一気読みした。

     

    なんと8枚もの領収書が掲載されている。

     

    一枚でさえも、ええんかいとツッコンだShiozyとしては、

     

    唖然空前茫然自失酒池肉林状態になったのである。

     


    よく読むと、この領収書に記されている食べ物がはんぱなく増えていくのである。

     

    つまり、この領収書は過食にはまっていく経過が明示されているのである。

     

    当初50キロ程度だった主人公理子は、138キロにまで肥満していく。

     

    それは「ポチャ専」と呼ばれるデルヘリ風俗嬢の世界なのだった。

     


    「ポチャ専」も「デルヘリ」もトンと縁がないShiozyには、

     

    摩訶不思議な世界ではあったのだが、これを32歳の女の子が表現する。

     

    それはそれで、すごいなあ、と感嘆したのだった。

     


    で、地図の前振りとどうつながるのだ?という話なのだが、

     

    吉原とデルヘリという風俗つながりではないのである。

     

    小説に登場する店

     

    フレスタ横川店

     

    セブンイレブン横川

     

    マクドナルド 白島店

     

    モスバーガー 八丁堀店

     

    中華彩館

     

    寿々苑

     

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    これらの店を実地検証してみたい衝動に駆られているのである。

     


    地図を片手に、見学ツアーしませんか?(笑)

     


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    <小説の舞台を歩く>

    • 2010.11.22 Monday
    • 21:30


    最近柄にもなく、時代小説にはまっているShiozyである。

     

    時代小説のなかで、江戸の地名などが出てくると、

     

    グーグル地図検索で地図を確認してみたくなるのである。

     


    「日陰町から愛宕山の裏にまわり、神谷町から飯倉を抜けた。

     

    上り下りの坂道が多いが、赤坂はさして遠くない」

     

    こういう表現を読むと、歩いた後を追跡してみたくなる。

     

    ところが、「日陰町」をググルと、なんと「新橋」が表示されたりして

     

    現在の地名では拾えないケースが多いのだ。

     

    そんな時、重宝なのがこれである。

     

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    【画像:470074.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    昔の道路に沿って歩いてみる。

     

    小説の主人公になった気分が味わえるのである。

     


    「三曲がりのゆるい坂を下って吉原の大門をくぐると、

     

    まだ暮れ方前だというのに、格子を覗く大勢の男たちで賑わっていた」

     

    地図が読めると、吉原に行った気分も味わえるのである。

     


    小説の舞台が知らない土地であれば地図を広げてみたくなるのであるが、

     

    最近立て続けに「広島」が舞台の小説に遭遇した。

     

    ある日、広島は横川駅前の書店に暇つぶしに入った。

     

    文学界新人賞受賞」の背表紙が目に入った。

     

    ふむふむ、最近の新人さんはどんな作風だ。

     

    頁を開いてびっくりたまげた。

     

    小説の冒頭がこれである。↓↓

    【画像:470075.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    いきなり、横川駅前スーパーフレスタの領収書である。

     

    あんたあ、小説にこれは禁じ手でしょう。

     

    人前もはばからず、Shiozyは叫んだのである。

     

    すぐさま受賞者の頁を確認した。

     

    なんと32歳の若き女性である。

     

    【画像:470076.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    家に帰って一気読みした。

     

    なんと8枚もの領収書が掲載されている。

     

    一枚でさえも、ええんかいとツッコンだShiozyとしては、

     

    唖然空前茫然自失酒池肉林状態になったのである。

     


    よく読むと、この領収書に記されている食べ物がはんぱなく増えていくのである。

     

    つまり、この領収書は過食にはまっていく経過が明示されているのである。

     

    当初50キロ程度だった主人公理子は、138キロにまで肥満していく。

     

    それは「ポチャ専」と呼ばれるデルヘリ風俗嬢の世界なのだった。

     


    「ポチャ専」も「デルヘリ」もトンと縁がないShiozyには、

     

    摩訶不思議な世界ではあったのだが、これを32歳の女の子が表現する。

     

    それはそれで、すごいなあ、と感嘆したのだった。

     


    で、地図の前振りとどうつながるのだ?という話なのだが、

     

    吉原とデルヘリという風俗つながりではないのである。

     

    小説に登場する店

     

    フレスタ横川店

     

    セブンイレブン横川

     

    マクドナルド 白島店

     

    モスバーガー 八丁堀店

     

    中華彩館

     

    寿々苑

     

    中華デリ

     

    じゅげむ宅配サービス 楠木店

     

    これらの店を実地検証してみたい衝動に駆られているのである。

     


    地図を片手に、見学ツアーしませんか?(笑)

     


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    <口がない理由>

    • 2010.11.19 Friday
    • 12:09


    昨日は、安芸高田市高宮で「福寿大学」の講演だった。

     

    安芸高田市での講演は、これで4回目である。

     

    吉田、美土里、高宮、高宮と続いている。

     


    実は、講演依頼というのはおもしろいもので、

     

    同じ市町からは連続しては来ないものなのだ。

     

    「去年、あの人の話は聞いたから別の人を呼ぼう」

     

    こう考えるからだ。

     

    これまで、二年連続で呼んでいただいたのは、

     

    東広島市と海田町のふたつだけだった。

     

    しかるに、安芸高田市は4回である。

     

    足を向けては寝られないのである。

     


    「福寿大学」であるから、もちろんお年寄り向けの講座である。

     

    最前列に坐った90歳近くのおばあちゃん。

     

    話が佳境に入って、手提げ袋からなにやら紙を取り出した。

     

    どうも新聞折込のチラシみたいだ。

     

    そのチラシの裏に、一所懸命メモをとってくれた。

     

    足を向けては寝られないのである。

     

     

     

    さて、こちらは足ではなく口のお話である。

     

    桐矢連載20話である。

     


    -------------------------------------------------

     

    「口のない友達」20  口がない理由   桐矢 絹子

     


    「大丈夫?」

     

    チカとマリは、病院内の喫茶店で向かい合わせに座っていた。

     

    「・・・・はい、なんとか」

     

    マリは、腫れた目もとをハンカチで押さえながら答えた。

     

    涙で流れたマスカラで目じりが黒ずんでしまい、目は真っ赤に充血している。

     

    泣きすぎてでてきてしまったしゃっくりを、無理やりとめようとして息苦しそうだ。

     

    「ひとりだけすべてわかってるような気になってたけど、

     

    あたし、なんにもわかってなかった」

     

    「そんなことないわ。これを理解しようとするのはとてもむつかしいことだと思う」

     

    チカとマリの前にコーヒーが置かれ、それがゆっくりと空になるまで、

     

    ふたりは黙って向かい合っていた。

     


    唐突にマリは大きく鼻をすすると、

     

    何かを吹っ切ったように鞄の中から長細い箱を取り出してチカの前にどんっと置いた。

     

    「これ、お姉さんにあげます」

     

    「え・・・・?」

     

    マリに促されるままに箱を手に取りふたをあけると、そこには湯のみがあった。

     

    この湯のみにも、見覚えがあるような・・・。

     

    「いつか、おばあちゃんの口にあげようと思ってつくったんです」

     

    だけど、さすがに何の説明もせずに、

     

    ほぼ初対面の女子高生に手作りの湯のみを渡されても、

     

    きっと気味悪く思われて受け取ってもらえないだろう。

     

    そう思ったマリは、2個目の湯のみをずっと自分で保管していたのだった。

     

    「・・・あなたはいつ、この口がおばあさんの口だと気づいたの?」

     

    「2年前、偶然口のあるお姉さんを見かけたときです。

     

    すぐに、おばあちゃんの口だと思いました」

     

    「そのことは?」

     

    「だれにも言ってないです。両親にも、だれにも」

     

    この子はだれにも言えないことをひとりでずっと抱えてきたんだな、とチカは思った。

     

    今まで、聞かされたくもないいろんな人の愚痴を、

     

    口がないのがこれ幸いとばかりにうんざりするほど聞かされてきたチカだ。

     

    だれにも言えないことをひとりで抱え込む辛さはよくわかっているつもりだった。

     

    このことが、どれだけ彼女の心に重くのしかかっていただろう。

     

    その度合いが小さいことを願うくらいのことしか、チカにできることはなかった。

     


    「あの、聞いてもいいですか」

     

    マリは、決心したように口を開いてはっきりとした口調でいった。

     

    「どうぞ」

     

    「どうしてお姉さんには、口がなかったんですか?」

     

    チカは、すこし目を伏せて考え込むようにしたあと、ゆっくりと答えた。

     

    「さあ・・・わたしにもよくわからないのよ」

     

    一呼吸置いてから、今度はチカがマリに尋ねた。

     

    「あなたは、どこも欠けてはいないの?」

     

    「えっ・・・・・・・・」

     

    「それに、どこも欠けているところがない人がいたとして、それは良いことなの?」

     

    「・・・・・」

     

    マリにはどちらの質問にも、答えることができなかった。

     

    「やっぱりわからないわよね。

     

    わたしもね、ずっと考えているのだけど、まだわからないの」

     

    いつかわかるときがくるかしらね、と言って、お姉さんは優しく笑った。

     

    そのときになって、お姉さんの口が、お姉さんによく似合っていることに

     

    マリははじめて気がついた。

     

    あの口は、おばあちゃんの口だった。

     

    だけど、今はもう違うんだ。

     

    マリは少しだけ嬉しいような悲しいような、不思議な気持ちになった。

     


    「じゃあ、お元気で」

     

    病院のロビーで、マリはチカを見送った。

     

    きっともう会うことはないんだろうな。

     

    マリは、なんともいえない寂しさを感じた。

     


    イワサキ チカさん、

     

    トルコキキョウのもうひとつの花言葉は、〈希望〉なんです。

     

    チカさんにもあたしにも、希望が持てますように。

     


    気分転換に売店をちょっとのぞいて、

     

    少しだけ遠回りをしながらマリはおばあちゃんの病室に戻った。

     

    そろそろと扉を開けて中に入り、音がしないようにゆっくりと扉を閉じた。

     

    「おばあちゃん」

     

    ベッドに向かってそっと声をかけたけど反応はない。

     

    寝ているのかな。 ゆっくりと近づいて、

     

    ベッドに横たわっているおばあちゃんの顔をうかがった。

     

    「・・・・・おばあちゃん?」

     


    ヨシヱおばあちゃんは、薄桃色のトルコキキョウを一輪にぎりしめて、逝った。

     

                                  <続く>


    -----------------------------------------------

     

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    <Shiozy捜査官>

    • 2010.11.13 Saturday
    • 12:00


    尖閣映像流失元が「海上保安大学校(呉市)」だと判明した。

     

    これは由々しきことだと事態の重大さを憂慮したShiozy捜査官は、

     

    急遽呉市を査察することにした。

     

    明日Shiozy捜査官は呉市に飛ぶ。

     

    【画像:466190.jpg】

     

     

     

     

     

     

     海上保安大学校

     

     

    だがしかし、大学校関係者は

     

    「捜査中のためコメントできない」と発言しているようなので、

     

    固くかん口令が敷かれているようである。

     

    具体的な供述および証拠が得られる見込みは少ないと思える。

     

    確たる供述が得られない場合、Shiozy捜査官の面目が立たない可能性が大きい。

     

    その場合、どう責任を取るのか?

     

    Shiozy捜査官の説明責任が問われるだろう。

     

    本紙の問いかけに、Shiozy捜査官はこう答えた。

     

    「まあ、ビデオのひとつやふたつ公開してもいいのではなかろうか。

     

    証拠が見つからないとしても、私の責任が問われることはありますまい。

     

    大学校を捜査したあとは、江田島に渡ってみかん狩りでもして帰りましょう」

     

    お気楽な捜査官であった。

     


    ということで、明日は江田島でみかん狩り@町内会行事。

     

    再来週の土日は、江田島で理論合宿@ソアラ行事。

     

    江田島に魅入られているShiozyなのである。

     


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    <不思議な語らい>

    • 2010.11.10 Wednesday
    • 21:36


    不肖Shiozyは、人を誉めるのが苦手ある。

     

    どちらかというと、

     

    貶し(けなし)怒り叱咤激励し、

     

    それでも突き放すタイプである。

     

    いわば、子供を崖から突き落とす親ライオンなのである。

     


    桐矢は弟子入り9ヶ月になろうとする。

     

    書いてきた文章をギタギタに切り裂いて順列を逆転させ、

     

    文書量を三分の一に圧縮し、それでもOKを出さない。

     

    こんな過酷な修行に耐えてきた桐矢なのだが、

     

    最近はごく一部の語彙を修正するだけにまで成長した。

     

    まあ、安心して読めるわけだ。

     


    苦節9ヶ月。

     

    親ライオンの役割もそろそろ卒業かもしれない。

     

    この小説も大団円を迎えようとしているこの時期に、

     

    初めて誉めてみるのである。

     


    誉めても食らいついてくるのか桐矢絹子。

     

    桐矢連載19話である。

     


    -------------------------------------------------

     

    「口のない友達」19  不思議な語らい   桐矢 絹子

     


    やっぱり来なければよかった。

     

    チカは、自分のとっさの判断を悔やんでいた。

     

    あのとき、変な情け心を持ちさえしなければ、

     

    今ここでこんな葛藤をしなくてもよかったはずだった。

     

    目の前のベッドに、口のない衰弱したおばあさんが横たわっている。

     

    この病室にチカを連れてきたマリが、

     

    「おばあちゃん」と軽く肩をさすりながら声をかけると、

     

    そのおばあさんはゆっくりと目を開けて

     

    そこに見知らぬ女性が座っていることを認めた。

     


    「こんにちは」

     

    チカはひかえめな声で目を覚ましたばかりのヨシヱおばあさんにあいさつした。

     

    「これ、お好きだと伺ったので」と、

     

    薄桃色のトルコキキョウと黄緑色のプブレリュームのちいさな花束を、

     

    そっと差し出した。

     

    おばさんは嬉しそうに目を細めて、枕もとの台に置いてある湯のみをみつめて、

     

    それから視線をマリに移した。

     

    マリはうなずいて、チカから花束を受け取り、

     

    病室の隅にある洗面台で湯のみに花を挿した。

     

    チカには、その湯のみに見覚えがあった。

     

    心臓を素手でぎゅっと握られたような痛みを感じて、とっさにつばを飲んだ。

     

    入りきらなかった花を長細いガラスの花瓶に生け、

     

    それらを枕もとの台の上に置くマリに対して、

     

    これまでのように割り切った気持ちでいることは、

     

    チカにはもうできなくなっていた。

     


    「トルコキキョウには、〈よい語らい〉という花言葉があるのですよ・・・・」

     

    チカの口はつぶやいた。

     

    「へえ。お姉さんは物知りですね。それ、むかしおばあちゃんに教えてもらいました」

     

    「・・・・今しゃべったのは、わたしじゃないわ」

     

    一年ぶりに口がしゃべった。

     

    今、目の前のおばあさんが、わたしについているこの口を使っている。

     

    「え・・・?それってどういう・・・」

     

    「マリちゃん、この人に謝りなさい。こんなところまで連れてきてしまって・・・」

     

    「・・・お姉さん、何言ってるの?」

     

    マリは怪訝そうな顔をしてチカをみた。

     

    目に、動揺と、怒りの色がみえる。

     

    「・・・・マリちゃん、いろいろありがとう。でも、もういいんだよ・・・・」

     

    「やめてよ!お姉さん、そんなやり方は卑怯だよ!!」

     

    チカは、ふーっとゆっくりため息をついた。

     

    この状況を理解しろというほうが無理だ。

     

    それに、この時チカは決心していた。

     


    「おばあさん、あなたにこの口をお返しします」

     

    チカは、おばあさんの目をじっとみつめていった。

     

    「あなたが口をくださったおかげで、

     

    わたしはいままで知らなかったことをいろいろと知ることができました。

     

    わたしには、それだけで十分です。

     

    これ以上、あなたの命を犠牲にしてまで口を使い続けるわけにはいきません。

     

    そんなの耐えられない」

     

    おばあさんはゆっくりと首をふって、

     

    そろりそろりと筋ばってほっそりとした手をチカに向けて伸ばした。

     

    チカはあわててその手を両手でふわりと包んだ。

     

    「だめですよ・・・ないと、あなた困るでしょう・・・」

     

    「このままおばあさんに死なれてしまったほうが、よっぽど困ります」

     

    「わたしはもういいんですよ・・・」

     

    「わたしがよくないんです」

     

    ひとりの口から発せられるふたりの会話を、マリはただ突っ立ってみつめていた。

     

    目の前で手を取りあったふたりのこの奇妙なやりとりを、

     

    どうにかして受け入れようと必死に頭の中が動いているのがわかる。

     

    だけど、それでいて思考は完全に停止してしまっていた。

     

    落ち着け、落ち着け、考えなければ、受け入れなければ、

     

    そんな言葉が、マリの頭の中にただ虚しく浮かんでいた。

     


    「・・・・もういいよ」

     

    マリはぼそりとつぶやいた。

     

    「もうわかったよ。・・・・あたしが余計なこと、しちゃっただけなんだ」

     

    そういうと同時に目から大粒の涙が溢れてきて、マリの視界をぼんやりと滲ませた。

     

    この、初対面であるはずのおばあちゃんとお姉さんの間に、

     

    口の受け渡しによってお互いへの思いやりのような気遣いのようなものが

     

    うまれているなんて。

     

    そんなこと、まったく想像すらしていなかった。

     

    自分がおばあちゃんの一番の理解者だと自惚れていたことを、

     

    たった今、思い知らされた。

     

    頭が重い。くらくらする。

     

    うしろから突然、おもいきり頭を殴られたような気分だった。

     

    マリは、どうしようもない疎外感を感じていた。

     


    「・・・・マリちゃん・・・・」

     

    おばあさんのつぶらな瞳が、まっすぐにマリをみつめていた。

     

    「ありがとうマリちゃん・・・ありがとう・・・・」

     

    チカについている口は、何度も何度も、

     

    マリちゃんありがとう、と言った。   <続く>

     


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    <ゆずれない想い>

    • 2010.11.04 Thursday
    • 13:18


    次の日曜日(7日)は過密スケジュールである。

     

    朝から団地掃除をこなし、ミヤカグイベントに馳せ参じる。


    小一時間過ごしたあと、昼からは「ブックスひろしま2010トークイベント」だ。

    昼飯はいつ食べるのだ?という不安を抱えながらの強行軍である。

     

    強行軍ではあるものの、どれも楽しみなイベントである。

     

    楽しみだから、「予習」をするのである。


    --------------------------------------------
     
     『見延典子 作家入門講座』
     〜「もう頬杖はつかない」「頼山陽」の著者が語る作法〜
     
      11月7日(日) 13:00〜14:30 (開場12:30)
      会場 まちづくり市民交流プラザ 北棟5階研修室C
           広島市中区袋町6番36号
      参加費用 1000円
    --------------------------------------------

     

    ↓↓予習中の見延作品二点ね。

    【画像:462918.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

    本日読んだエッセー集「頼山陽にピアス」のなかに

     

    私のブログと同じネタがあった。

     

    ふむふむ、わしのブログと見延エッセー、どっちが面白いかのう?

     

    などと、たわけた妄想に浸ったのであった。

     

    タイトルは「武士の家計簿」である。


    いつか両方並べてアップしてみようかしらん。。。

     

     


    妄想ふくらむShiozyはさておいて、

     

    佳境を迎えつつある桐矢作品である。

     

    桐矢連載18話なのだ。

     


    -------------------------------------------------

     

    「口のない友達」18  ゆずれない想い   桐矢 絹子

     


    「突然すいませんでした」

     

    「ほんとに。かなりびっくりしたわよ。

     

    まさかあなたが辻本さんだったなんてね」

     

    そのまま立ち話で済ませるわけにもいかず、チカはマリを部屋へ入れた。

     

    マリは大学1年生になっていた。

     

    高校卒業と同時に髪を明るい色に染め、

     

    服装も前よりずっと大人っぽいものになっていたため、

     

    ぱっと見ただけではチカには判別ができなかった。

     

    自分の焼いたカップに紅茶を注ぎ、マリの前に置いた。

     

    「お姉さんは、陶芸まだ続けているんですか?」

     

    「いいえ。1年前にやめちゃったの」

     

    河辺さんと付き合いだして、無理して何かに集中しなくてもよくなったから、

     

    とチカは頭のなかで続けた。

     


    「つまり、この口は、あなたのおばあさまのものなのね」

     

    「そうです」

     

    「そのおばあさまが老衰で弱ってしまって危険な状態。

     

    口があれば、回復するのではないかと」

     

    「はい」

     

    チカは、しずかにふーっと深いため息をついた。

     

    返して欲しいなら、返して欲しいとこの口は自分でいうだろう。

     

    だけど、なにも言わない。

     

    ここ1年、口はまったく意思表示をしなかった。

     

    きっとおばあさんは、口を返して欲しいとは思っていないのだ。

     

    だけど、はたしてどうやったらそれを的確に彼女に伝えることができるだろう。

     

    起こったことをありのままに説明したって、

     

    そんなこと信じてもらえないに決まっている。

     

    それに、もうひとつ気がかりなことがあった。

     

    チカは、こんな大きな問題を突然ぶつけてきたマリに、

     

    すこし意地悪をしてやりたいような気分になった。

     


    「あなた、彼氏はいる?」

     

    不意打ちのような質問に、マリはきょとん、としながらも

     

    「あ、はい一応」と答えた。

     

    「いつから?」

     

    「大学に入って、ちょっと経ってからです。」

     

    「それが初めて付き合う人?」

     

    「いえ・・・。初めて付き合ったのは、中3のときです。

     

    でも、高校が離れて自然消滅しました」

     

    「そう・・・」

     

    チカは、マリに対して軽い嫉妬のようなものを感じていた。

     

    自分にとって諦めるしかなかったことを、

     

    ごく当たり前のことのように言った彼女に腹が立った。

     

    きっとこの子には友達もたくさんいるのだろう。

     

    その上、自ら望んで口を手放したおばあさんまで助けたいから口を返せだなんて、

     

    なんて自分勝手で欲張りなんだろう。

     


    「わたしもね、付き合っている人がいるの」

     

    「あ、そうなんですね」

     

    マリはにこっと微笑んだ。

     

    「彼のご両親にあって欲しいと言われているのだけれど・・・・

     

    あなたに口を持っていかれてしまったら、きっと破談ね」

     

    マリが息を止めたのがわかった。

     

    あなたの願いは、わたしを不幸にするものなのよ、

     

    とチカに言われていることにようやく気がついたのだ。

     

    黙ったままうつむいてしまった。

     


    長い沈黙が続いた。

     

    「・・・・・・・すみませんでした・・・・」

     

    ようやく聞きとれるくらいのちいさな声で、うつむいたままマリはつぶやいた。

     

    「勝手なこといって、すみませんでした」

     

    帰ります、といって下をむいたまま立ち上がり、

     

    鞄をわしづかみして部屋を出て行こうとしたマリを、

     

    このまま帰してもよいのだろうかと考えたチカは、

     

    ちょっと待って、と呼び止めていた。

     

    「・・・・・・おばあさんに会わせてもらえる?」   <続く>

     


    -----------------------------------------------

     

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    <それぞれのブルーあるいはグレイ>

    • 2010.11.01 Monday
    • 11:52


    土曜日はフードフェスティバル。

     

    日曜日は団地芋ほり大会。

     

    ↓↓これね。

    【画像:461957.jpg】

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     

     


    キャッチボール仲間のボクが持っているイモは、はるめさんよりのもらい物。
    我が団地のイモはこの五分の一でしたあああ。

     


    食欲の秋を満喫したあとは、

     

    読書の秋といきましょうか。

     

    ということで、恒例☆桐矢連載17話である。

     


    -------------------------------------------------

     

    「口のない友達」17 それぞれのブルーあるいはグレイ  桐矢 絹子

     


    「かなり弱ってきていらっしゃいます。

     

    そろそろ、覚悟をしておられたほうがよいかもしれません」

     

    だめだよ。そんなのは、だめよ。このままじゃいけない。

     

    ・・・・・あたし、探さなきゃ・・・・。

     

     

    「うちの両親に会ってくれないか」

     

    「・・・・・」

     

    「チカ?」

     

    「ううん。うれしいの。うれしいんだけど、でも・・・・・」

     

    「なにが心配?」心配ごとというと、ひとつしかありません。

     

    「・・・・わたし、もともとは口がなかったから・・・。

     

    あなたのご両親に気に入ってもらえるかどうか・・・」

     


    すこし時間をおいて、彼はいいました。

     

    「実は、両親にはもう話したんだ。チカに口がなかったこと」

     

    一瞬にして不安が頭の中も心の中も覆いつくしてしまい、

     

    さーっと血の気が引くのを感じました。

     

    「そんな顔しないで。うちの親はわかってくれたよ。

     

    だから、会ってもらいたいんだ」

     

    「でも・・・」

     

    「口がなかったのは今までのこと。

     

    これからはあるんだ。だからなにも問題ないじゃないか」

     

    わたしは思い切って、今まで気になっていたけど聞けなかったことを聞いてみました。

     

    「わたしに口がないままだったら、河辺さんはわたしと付き合わなかった?」

     

    「河辺さん」と呼ぶのはやめて、下の名前で呼んで、何度もそう言われたけど、

     

    恥ずかしくてどうしてもそれはできないままです。

     

    付き合って1年も経つのに、

     

    わたしはずっと河辺さんのことを「河辺さん」と呼んでいました。

     


    「チカのことは、口がないときからいいなと思ってた。

     

    でも、正直に言うと、口がないままだったらやっぱり付き合うのはためらったと思う」

     

    本音を言ってくれた彼に誠意を感じました。

     

    でも、やっぱりその答えは哀しい。

     

    できれば、うまく誤魔化して答えて欲しかった。

     

    なんて、わがままでしょうか。

     

    それに、口がない時からいいと思ってくれていたとしても、

     

    口を手に入れてから付き合うまで1年空いている。

     

    また口がなくならないかどうか様子をみていたのかしら。

     

    などという考えも浮かんできてしまう自分がイヤになります。

     

    「返事は待つよ。よく考えてみて欲しい」

     


    こういう時です。

     

    やはり自分はもともと口がある人とは違うのだと思い知らされるのは。

     

    最初からわたしに口がありさえすれば、

     

    こんなときはなんの心配もせずに、幸せな気分にどっぷりと浸って、

     

    たとえば真剣に世界の平和だって願うことができるのに。

     


    「あの、イワサキ チカさんですよね?」

     

    「はい?」

     

    アパートのドアの前でカギを探していると、女の子に声をかけられました。

     

    どこかで会ったことがあるような気がするけど・・・・。

     

    「お願いします。口を返してください。

     

    このままじゃ、おばあちゃんが死んでしまう」

     

    辺りがぐらり、と大きく揺れました。

     

    ほらね。

     

    わたしに世界の平和を願う余裕なんて、すこしも与えられていないのよ。  <続く>

     


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