交通誘導歴20年、という人に話を訊いた。
「永年勤続20年表彰」の秘訣は、そこを通行する歩行者やドライバーからの
「ご苦労さま」という小さな一言だった。
これは交通誘導のベテランだからこそ言えることであっって、
果たして若い人たちは納得できる話なのであろうか?
こんな疑問がわいて、パーティ会場にいる若い警備員を探したのである。
会場の隅のテーブルに、たったいま仕事が終わって
急いで駆けつけましたという風情の若者がいた。
だれと話をするでもなく、ただ黙々と料理をつまんでいる。
顔一面が真っ黒に日焼けしていて、
ベテランのような上と下を区切る境界線はまだできていない。
日焼けの仕方もまだ若輩というわけだ。
わたしは彼の横に坐って話しかけた。
警備員になってどれくらいたつの?
「・・・・・」
知らないおっさんが突然話しかけてきて、彼は驚いている。
だがしかし、会社関係のだれかだろうと思い直したのか、
「先月入社したばかりです」
「そう、誘導員の仕事に少しは慣れた? きつくない?」
会社のオエライさんから質問されていると勘違いして、
急に緊張しまくる彼。
「ええまあ、少しきつい、、、いえ、だいじょうぶです」
しどろもどろの返事である。
警備業界に勤める人たちは、概して寡黙である。
問いかけても、はいとかいいえがせいぜいである。
そんな人へのインタビューはとてもむつかしいのであるが、
それでもこんな事情を聞きだしたのである。
30歳の彼は、この3月まで北九州にある大自動車工場で
期間工として勤めていた。
ご多分にもれず、彼も「雇い止め」を食らって、
実家がある下関に帰ってきた。
職安で職探しをするものの、職が見つからない。
30歳の自分でさえ見つからないのだから、
一緒に働いていた50代の人たちはもっと大変だろうな。
初めのころは同僚を思いやる余裕もあったが、
だんだん焦りを感じだした。
そろそろ失業給付が切れる7月に入って、
「新会社発足に伴う社員募集」というパソコン画面に出くわした。
それがこの会社の交通誘導の仕事だった。
まだひと月もたたない新人なので、
炎天下に立ちっぱなしという仕事は正直きつい。
ちょっと長めの交通遮断をすると、ドライバーに怒鳴られたりする。
そこをうまく裁く先輩たちは、すごいなと思ったりもする。
このへんまで話を聞きだしたところで、パーティはお開きになってしまった。
まだまだ聞きたいことがたくさんあるぞ。
せっかく語りだした彼の話を中途で終わらせたくはない。
ということで、二人で二次会に行ったのだった。
しかし、悲しいかな二人とも下関の飲み屋を知らない。。。
駅前をうろついてはみたものの、そして店はたくさんあるものの、
勝手様子がわからない。
そこへ私のケータイが鳴った。
「いまどちらです? 社長が次の店でお待ちです」とのこと。
社長からのお誘いを袖にするほどの度胸はない。
仕方がないので、その彼を連れて二次会へ行ったのである。
その店には、社長以下役員さん部長さんたちが勢ぞろいしている。
新人の彼にしたら、初めて見る顔ばかりだろう。
緊張して一番隅っこに隠れるように坐った。
小一時間の間が流れて、二次会から抜け出て、また彼との話再開である。
小さな日本料理屋さんに入って、刺身をつまみながらの会話である。
大工場のラインから警備員への転身、
それは自分的には残念なことなのかなあ?
こう問いかけると、
最初はそういう思いもありました。
日本を代表する自動車産業に、期間工とはいえ安定的に勤められて
それなりに充実した人生でした。
しかし、人はあっけなく捨てられるのだなあと、今回の件でわかりました。
入社したばかりで、この仕事をやっていく自信はまだありませんが、
この会社は「ちょっといいかも」と思ったりしてます。
えっ、どんな点が「ちょっといいかも」なんだ?
だって、入社1ヶ月にもならないボクを設立パーティによんでくれて、
そのパーティでは「勤続20年」の人が表彰されて、
パーティに参加したみんなが和気藹々と話をしていて、
だれか知らない人が酒を飲ませてくれて、ボクの話を一生懸命聞いてくれて、
なんだかわからないけれど、「家族」みたいな雰囲気が感じられて、
工場のラインとは違った「温かさ」があるような気がします。
ふむ、なかなかいいところを見ているじゃないか。
30歳の彼がこの会社に骨をうずめる。
それはつまり、彼が結婚して子供をもうけて家庭を築いて
永年勤続を表彰されるまで勤め上げることを意味するのだが、
これを具現化することこそが、会社の責務であるように思うのだ。
彼のような人にこそ、ずっと働いてほしいものである。
若い<現場ぢから>が、会社の原動力だと思うからだ。
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